水文・水資源学会が今年で30年を迎えますが、その記念特集の一環として、若手グループで総説論文を書いています。
その中で、10年前の自分に、みたいなメッセージを書きましたが、当然のことながら科学性の無い文章で却下されました。残念ですが、せっかく書いたので、ここで文章を残します。
本節筆者は、大学の学部4年生から研究を始め、博士取得までの6年間は全球水資源モデル開発、その後の4年間は全球大気データ同化システム開発を行ってきた。研究を進める中で筆者が持った疑問・思考の澱を少しはクリアにできたかと思うので、最後にその点に触れたい。それは「科学」をどう捉えるか、という点である。著者なりに納得した1つの答えとして、「巨人を成長させる営み」を現時点の定義としている。即ち、人類により蓄積された合理的な知識・経験の体系(巨人)を、合理的に成長させる営みである。合理的に成長させる方法は、根源的には帰納と演繹である。そして、科学者の仕事は、その知識を人類の知識とする、「巨人を成長させること」である。巨人の成長を他者に納得させるためには、現在の巨人(人類の知りうる知識)の明示と、巨人の成長の帰納的・演繹的説明が必要である。「何かをより良くする」ことではなく、「巨人を成長させる」ことが科学である。
当たり前のことだが、置かれている営みのルールに納得できたことで、著者自身はようやく自身の視界を拓くことができたように思う。研究者を志した10年前の自分には、営みのルールを理解すること、この点を一番伝えたい。当然の事ながら、研究を通した自己実現目標は、各研究者の自由意志である。著者自身は工学的な志向が強い様で、最後は自分の仕事を社会に還元したい。次の10年は、そのためのルールや方法を模索することになるだろう。40周年のタイミングで自分なりの回答を持てていれば幸いである。